2013年4月16日火曜日


カナダ糖尿病GL「HbA1cで診断,40歳からスタチン,55歳からRA系阻害薬」

カナダ糖尿病学会(CDA)は2013年4月8日,診療ガイドラインの改訂を発表。
「診断時のHbA1c値測定」と「HbA1c 6.0~6.4%(NGPS値)を前糖尿病(prediabetes)と定義」が新たに加わった。また,画一的な目標血糖値は設定されず,年齢や罹病期間,心血管リスクなど個別の状態に応じて設定することが推奨された。
また,心血管疾患予防を目的とした血管保護療法に関する項目を追加。
40歳以上の成人患者へのスタチン使用や55歳以上からのACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の使用などが推奨されている。

降圧目標はADAと異なり,130/80mmHgに据え置き
■CDAが今回の改訂のポイントとして最初に挙げたのは糖尿病のスクリーニングとして空腹時血糖(FPG)同様,検査前の絶食が不要なHbA1cを追加したこと。
単回測定のHbA1cが6.5%以上の場合「糖尿病」,6.0~6.4%の場合「前糖尿病(prediabetes)」と診断することを推奨している。
 
■また,血糖管理の目標値については,個別の状況を踏まえた設定を推奨。
ほとんどの1型,2型糖尿病患者においては大血管障害リスク減少を鑑みHbA1c 7.0%以下とすべきとの内容が示されている他,「(診断から間もない若年患者のような)発症早期からの適応が行える場合,7.0%以下」との目標を設定。
さらに「腎症や網膜症リスクを減少させる必要がある場合,一部の2型糖尿病患者ではHbA1c 6.5%以下を目標とすることが可能」との勧告も追加された。
 
■さらに,エビデンスレベルが最も低い「グレードDのコンセンサス」として,期待余命が限定的,要介護度が高い,多発合併症などがある場合は,目標値をより緩やか(HbA1c 7.1~8.5%を目安)にすることが推奨されている。
なお,降圧目標は米国糖尿病学会(ADA)の勧告(140/80mmHg)と異なり,従来の130/80mmHgを推奨している。

「糖尿病患者の心血管年齢は約15年上積み」で積極的な血管保護療法を推奨
■「糖尿病患者の心血管年齢は一般的に実年齢の10~15年上積みされている。個人の短期~長期にわたる心血管疾患リスクを下げるため,血管保護を目指した薬物療法が必要」との見解が示されている。

以下の要因を有する成人1型,2型糖尿病患者では,心血管疾患リスクを減らすためにスタチンの使用を推奨する
・臨床的に明らかな大血管疾患がある
40歳以上
40歳未満で次のいずれか1つがある場合
  ・糖尿病罹病期間15年を超え,かつ年齢が30歳を超える
  ・細小血管合併症がある
次のうちいずれかを有する成人1型,2型糖尿病患者では,心血管疾患リスクを減少させるため,血管保護作用が期待で
 きる用量のACE阻害薬あるいはARBの使用を推奨する
  ・臨床的に明らかな大血管疾患
  ・55歳以上
  ・55歳未満で細小血管合併症がある
注意:妊娠の可能性のある女性に対するACE阻害薬,ARBまたはスタチンは確実な避妊が確認できる場合にのみ使用す
 べき
糖尿病患者の心血管疾患初発予防を目的に,アスピリンをルーチンに使用すべきでない
確立した心血管疾患合併糖尿病患者の再発予防として低用量アスピリン(81~325mg)を使用することは可能
アスピリン不耐容の患者に対し,クロピドグレル75mgを使用することは可能
 
なお,今回のガイドラインの患者教育を目的としたスローガンはABCDES。

A「A1cを適正範囲に」
B「Blood pressureの適正管理」
C「Cholesterolを目標範囲に」
D「Drugs:投与が適切と認められる患者に対する心保護のための薬物療法」
E「Exerciseとその他の生活習慣是正」
S「Stop Smoking」


出典  MT Pro 2013.4.12
版権  メディカルトリビューン社

<私的コメント>
・「アスピリンをルーチンに使用すべきでない」・・・禁忌さえなければルーチンに近い使用は許されるのではないか。
・スタチンやACE阻害薬やARBがコレステロール値や血圧値に関係なく推奨されることは画期的なことと思われる。



ワルファリン服用中はクコにも要注意


納豆だけでない,ワルファリン服用中はクコにも要注意
ドイツで出血リスクに注意を呼びかけ
ドイツ医薬品局は「ビタミンK拮抗薬とクコとの相互作用によりプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が上昇し,重度の出血を来す恐れがある」と注意を促した。

欧州でクコ茶やクコ入りジャムが人気
■クコ(枸杞)はナス科の植物で,特に中国では古くから食卓に上るだけでなく,免疫強化作用,強心作用,血中脂質低下作用があるとされ,不老長寿の妙薬としても重宝されてきた薬用植物。
わが国でも広く知られており,杏仁豆腐の上に載っている赤い実。
 
今回の報告ではビタミンK拮抗薬服用下でのクコ摂取と,INR上昇,出血との関連。

ビタミンK拮抗薬使用患者への情報の周知を
クコの成分によるシトクロームP450(CYP)2C9の阻害,P糖蛋白質との相互作用,クコの成分自体の抗凝固作用などが想定されてはいるが,機序は明らかになっておらず,早急な解明が待たれるところである。

<私的コメント> 納豆、クロレラ食品や青汁と異なりクコはビタミンK拮抗薬の作用を増強することが大きな問題です。



出典  MT Pro 2013.4.9
版権  メディカルトリビューン社




2013年4月13日土曜日

頸動脈プラーク内出血リスクとしての脈圧


どの血圧指標が頸動脈プラーク内出血リスクとなるか:ロッテルダム研究

オランダ・エラスムス医療センターのMariana Selwaness氏らは、前向き住民ベースコホート研究であるロッテルダム研究のデータを解析し、脈圧が頸動脈におけるプラーク内出血(IPH)の存在を示す最も強い血圧指標であることを明らかにした。
IPHは脳梗塞と関連するアテローム性動脈硬化の特徴であるが、これまでその決定因子は判明していなかった。
本研究の結果を踏まえてSelwaness氏は、「拍動流とIPHとの関連は、不安定プラーク(vulnerable plaque)の発現に関する新しい知見をもたらす可能性がある」とまとめている。
最も強い関連を示したのは脈圧
■対象は、超音波頸動脈内膜中膜厚(IMT)が2.5mm以上で、1.5T-MRI検査を受けていた45歳以上の健常者であった。

■IPHの存在は3D-T1w-GRE MRI画像で特定し、血圧指標とIPHとの関連について、年齢、性別、頸動脈壁厚、心血管リスク因子で調整した一般化推定方程式(generalized estimation equation)解析にて評価した。

結果
●年齢・性別による補正後解析の結果、IPHとの関連が有意であったのは、収縮期血圧と脈圧であった(それぞれp=0.04、p=0.002)。

●多変量解析後、最も強い関連を示したのは脈圧であった。

●収縮期血圧の同オッズ比は1.13(同:0.99~1.28、p=0.07)であり、その他の血圧指標で補正後も有意な関連を維持したのは脈圧のみであった。

●喫煙、収縮期高血圧の因子を統合すると、IPHの存在リスクは2.5倍(95%CI:1.2~5.2)上昇した。


<私的コメント>
患者さんから「血圧の上と下の数字が開くとよくない、と他人から聞いたのですが本当でしょうか」と尋ねられることがあります。
そんな時には「上下の血圧が開くのは(一部の疾患を除いて)動脈硬化がすでに起こっているからですよ。年齢とともにこの傾向が強くなるんですよ」と説明します。
この論文では年齢補正がしてあります。
しかし、動脈硬化が強いから結果として脈圧が大きくなり、動脈硬化があるからIPHが起こっているということかも知れません。
つまり、「脈圧による血圧の拍動成分や、さらに付随する血流の拍動による「ずり応力」が、既に存在する頸動脈プラークにメカニカルストレスをかけて、プラークを不安化させ、その内部に出血を生じさせた」とは言えないかも知れません。