2013年3月29日金曜日

降圧剤 論文撤回騒動 


降圧剤「バルサルタン」の臨床試験論文3本が、掲載した学会誌から「重大な問題がある」との理由で撤回された。
血圧を下げる本来の効能は否定されていないが、脳卒中などのリスクを下げる働きもあるとした論文の信頼性は揺らいでいる。
論文をPRに利用してきた製薬会社「N」(東京)の社員が、試験に関係する別の論文で統計解析責任者として名を連ねていたことや、N社が論文責任者側に1億円余の奨学寄付金を提供していたことが取材で判明した。

問題の臨床試験は、KF医大のM・元教授(56)=2月末に辞職=のチームが04年にスタートさせた。
高血圧の患者約1500人にバルサルタンを飲んでもらい、経過を追跡。
薬の効果を確かめていった。
 
問題の3論文は、09〜12年、日欧の2学会誌に相次いで発表された。
09年の最初の論文は「従来の降圧剤に加えバルサルタンを服用すると、血圧の低下と関係なく、脳卒中や狭心症のリスクも下がった」と、欧州心臓病学会誌に発表された。
 
■N社は、この論文を基に、バルサルタンの効果をアピールする広告を医学雑誌にたびたび掲載するなど営業活動を展開。
コンサルタント会社によると、11年度の売上高は、日本の医家向けの医薬品中3番目の約1192億円に上った。
 
■欧州心臓病学会は、今年2月になって「複数のデータに重大な問題がある」と、論文を撤回。
関連する論文2本を掲載していた日本循環器学会誌も、昨年末に「データ解析に多数の誤りがある」との理由で撤回する事態となった。
いずれの学会誌も「重大な問題」の詳細は明らかにしていない。
 
M元教授は「データ集計の間違いでしかない。論文の結論に影響を及ぼさない」と声明を出し、KF医大は今年1月、学内3教授による予備調査で「研究に不正はなかった」と日本循環器学会に報告した。 この試験を巡っては1年ほど前から、「試験終了時の血圧値の平均値と(データのばらつきを表す)標準偏差のデータが、薬を飲んだ患者群とそうでない群で一致している。試験終了時に異なるのが自然なはず」「同じ薬を使った国内外の臨床試験の結果と合わない」などと、専門家から不自然さを指摘されてきた。

◇研究責任者と密接な関係 個人的謝金も
KF大学に記録が残る08年1月以降、松原元教授の研究室に提供された民間からの奨学寄付金は、253件計4億2800万円。

このうち、N社からは18件計1億440万円あり、金額は約4分の1を占めていた。
 
2月のN社の社長定例会見では、論文が撤回されて営業活動に臨床試験のデータが使えなくなったことには「非常に残念。今後、(顧客の)医師にも説明していきたい」と話していた。


出典  毎日新聞  2013..29
版権  毎日新聞社

2013年3月19日火曜日

ワルファリン+アスピリン併用の心房細動患者


ワルファリン+アスピリン併用の心房細動患者、脳梗塞は減少せず大出血が増加

房細動患者の大規模国内レジストリーであるJ-RHYTHMの登録者を対象とした新たな研究で、心房細動患者に対する抗血栓治療においてワルファリンとアスピリンを併用した症例では、脳梗塞は減少せず、大出血のリスクが増加していることが明らかになった。
藤田保健衛生大学循環器内科のグループが、3月17日まで横浜で開催されていた第77回日本循環器学会(JCS2013)で発表した。

■演者らは、J-RHYTHMに登録された7101例のうち、ワルファリン単剤投与群(5388例)、アスピリン単剤投与群(475例)、ワルファリン+アスピリン併用群(1101例)を比較した。
平均観察期間は2年間だった。

■結論; 心房細動患者に対するワルファリンとアスピリンの併用群は、ワルファリン単独療法群に比べ、脳梗塞イベントが減らず、大出血と全死亡のリスクが増加していた。
大出血リスク増加に対しては、出血の既往が特に関連が強かった。


<私的コメント>
私はしばしば、こういった症例に併用療法を行っていました。


脳梗塞の既往は、ワルファリン群が13%、アスピリン群が7%、併用群が27%。冠動脈疾患の有病率はそれぞれ4%、10%、29%。CHADS2スコアはワルファリン群が1.6±1.2、アスピリン群が1.3±1.2、併用群が2.2±1.3だった。

J-RHYTHMに登録された7101例のうち、ワルファリン単剤投与群(5388例)、アスピリン単剤投与群(475例)、ワルファリン+アスピリン併用群(1101例)

脳梗塞の既往は、ワルファリン群が13%、アスピリン群が7%、併用群が27%。冠動脈疾患の有病率はそれぞれ4%、10%、29%。CHADS2スコアはワルファリン群が1.6±1.2、アスピリン群が1.3±1.2、併用群が2.2±1.3だった。


脳梗塞、大出血、全死亡の各イベント別に、ワルファリン群に対するアスピリン群、併用群のハザード比上昇に関連した有意な予測因子について検討した。

アスピリン群における脳梗塞のハザード比上昇の有意な予測因子は男性と低体重、全死亡のハザード比上昇の有意な予測因子は男性、低体重、貧血、永続性心房細動だった。同様に、併用群における大出血については出血の既往、全死亡については、男性、貧血、永続性心房細動の既往が有意な予測因子だった。

CHADS2スコアの上昇は、ワルファリン群に対するアスピリン群、併用群の、すべてのイベントリスク増加の有意な予測因子となっていた。